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ヘルスケア産業のNEXT STAGEへ。“新たな二歩目”を踏み出す

2017/01/23

経済産業省では、少子高齢化社会が進む中、顕在化した社会的な課題の解決に向けて、ヘルスケア産業の創出に取り組んでいる。その中で、日本再興戦略2016に示された「ヘルスケア分野のエコシステム作り」を促進させるため、2016年3月、第1回となる「ジャパン・ヘルスケアビジネスコンテスト2016」を開催した。コンテストは大きな注目を集め、盛況の内に終わったが、経済産業省ではこの成果をさらに発展させるべく、2017年3月に「ジャパン・ヘルスケアビジネスコンテスト2017」を開く。第1回の評価や今後の狙いなどについて、経済産業省 商務情報政策局 ヘルスケア産業課 課長補佐 山本宣行氏に話を聞いた。

 

ヘルスケア分野の“甲子園”かつ“架け橋”となるイベントとして企画

helthcare_picver4少子高齢化が進む中で、医療費、介護費の増加、介護人材の不足などが大きな問題になっている。その解決には公的保険に基づく施策だけでなく、公的保険外におけるヘルスケア産業の創出も必要だ。しかし、ヘルスケア分野では事業化の成功事例が少なく、ビジネスノウハウも蓄積されていない。ベンチャー企業などの新規参入者が、成長しづらい環境にあるのが実情だ。

これに対して、政府の日本再興戦略2016では、健康上の問題で制限されることなく、日常生活が送れるように、“健康寿命延伸産業が持続的、自立的に創出されていく環境整備”が掲げられている。そのため、官民のイベントと連携しながら、必要な資金や人材の供給、優良事業の共有を通じて、ベンチャー企業が成長できるエコシステムを作っていくことが打ち出された。

「ヘルスケア関連のピッチイベントやビジネスコンテストを見てみましたが、イベントごとの連携は図られているものの、幅広くつながっているようには思えませんでした。このことから、ヘルスケア分野に特化して、様々なイベントと連携、“架け橋”のような役割を果たすイベントを経済産業省が開くことに意味があると考えました。さらに、様々なイベントと連携しつつも、高校野球でいう甲子園のように、ヘルスケア分野で最も注目を集めるコンテストを開こうと思い、『ジャパン・ヘルスケアビジネスコンテスト』を企画したのです」と山本氏は明かす。

第1回となる「ジャパン・ヘルスケアビジネスコンテスト2016」を、2016年3月に開くべく準備を始め、厚生労働省の協力の下、応募事業者とコンテストを支援するサポート企業を募った。1回目ということもあり、ヘルスケア産業課の担当者が、連携イベントの主催者やサポート企業に直接出向いて参加を依頼。そうした努力もあって、「ジャパン・ヘルスケアビジネスコンテスト2016」は盛り上がりを見せ、様々な方面に大きなインパクトを与えるイベントになった。

 

大きな注目を浴びたグランプリ・優秀賞受賞5社

コンテストの審査基準は、「社会的課題の解決に資するインパクト」「新規性・革新性」「成長性・将来性」の3点。応募者の事業に対する熱意・姿勢も審査の対象となった。グランプリのMRT株式会社、優秀賞の株式会社イデアクエスト、株式会社こころみ、株式会社竹屋旅館、株式会社ミナカラは、これらの点が高く評価され受賞となった。(優秀賞は企業名五十音順にて記載)

受賞した5社とも、医療や介護に寄与し、患者のQOL(Quality of Life:生活の質)改善に貢献することに、特に優れていたことが大きな特長だろう。この中には、医療や介護に直接的あるいは間接的に資するもの、それらの周辺で、超高齢社会、都市化に伴う孤独、ITの発展による情報格差などから生じる課題をコミュニケーションの力で解決しようというものもある。

「人が元気に生きていけるかどうかは、その人の生きる意欲によります。誰かと話をしたり、自らを語ることで、積極的になっていきます。そう考えると、私たちの会話型見守りサービス『つながりプラス』と自分史作成サービス『親の雑誌』は、ヘルスケア産業のど真ん中に位置すると思います」と、こころみ 代表取締役社長 神山晃男氏は胸を張る。

連携イベントとは、「Japan Venture Award」などベンチャー支援を行っている様々なイベントと広く連携を図った。加えて、多数の有名企業がサポート企業として参画。ファイナリストとのマッチングを行うことで、ファイナリストは成長のための支援を受けるきっかけになった。

マッチングは、コンテストの当日、まさにその場で支援の有無を決める方式で行ったが、イベントとして盛り上がっただけでなく、受賞企業とサポート企業の両者ともに“運命の赤い糸で結ばれた”と感じられ、効果的なものになった。

当日は多くのメディアも来場し、多数のテレビ番組、新聞、Webなどで取り上げられた。これがきっかけになって、受賞5社は大きな注目を浴び、従来とは段違いのメディア露出、講演依頼、資金調達なども実現している。

 

さらに影響力のある「情報発信の場」にしていく

healthcare_pic2.jpeg特にグランプリを獲得したMRT株式会社はコンテスト後、Webを含めた記事の掲載が100件以上、半年間で80回以上の講演を行った。受賞翌日には、株価がストップ高まで上昇、上場来の高値を更新する効果もあった。

「これまで、医療分野という特性も踏まえて、目立つことより地道に実績を積み重ねる戦略をとっていました。グランプリ受賞の注目度は、2014年12月の東証マザーズ上場をはるかに上回り、私たちの予想を超えるものです。韓国、保健福祉部保健医療制作局の来訪、台湾の国際フォーラムでの登壇、政府主導のアフリカ開発会議(TICAD)への参加など、国際的な認知度も大きく高まりました」と、MRT株式会社 代表取締役社長 CEO 馬場稔正氏は振り返る。

順調に滑り出した「ジャパン・ヘルスケアビジネスコンテスト」だが、2017年3月に開かれる第2回は、第1回以上に注目が集まるものとみられている。そこで、主催者である経済産業省では次の3点に力点を置いて、コンテスト内容を企画している。山本氏は主催者としての思いを次のように語った。

1点目は、連携イベントの数を前回よりも増やしたことだ。お互いのイベントをWebサイト上で告知するのに加えて、お互いのイベントに応募者を紹介し合うなど、実質的な連携ができるようにした。

2点目は、サポート企業のさらなる充実だ。応募事業者とサポート企業のマッチングはエコシステムを作っていく上で、非常に重要になる。そのため、応募事業者の成長のために必要な支援を行うとともに、ビジネスコンテストがメリットだと感じる企業にサポート企業として加わってもらう。

3点目は、「ジャパン・ヘルスケアビジネスコンテスト」を「情報発信の場」にすることだ。第1回同様に多くのメディアの参加を見込んでいる。このコンテストで受賞企業が注目を集め、活躍する機会を提供する。また、経済産業省としては日本が抱える課題を解決し次世代のヘルスケア産業を予感させるビジネスを発信していく方針だ。

 

「ジャパン・ヘルスケアビジネスコンテスト2016」受賞企業紹介

◎グランプリ
【MRT株式会社/遠隔診療・健康相談サービス「ポケットドクター」】

MRT株式会社は2000年に東京大学医学部附属病院の医師の互助組織を母体に発足、医師紹介サービスと医局向けサービスを展開してきた。そのノウハウを生かして、提供するのが日本で初めてのスマートフォン、タブレットを用いた遠隔診療・健康相談サービス「ポケットドクター」である。

手元のスマートフォンやタブレットに搭載されているカメラを利用することで、従来の電話による診療(電話再診)に比べて、より具体的な形で、医療アドバイスや診療を行える。また、「体調が優れないが仕事が忙しく、病院に行く時間がない」「病院に行くほどではないが、身体に不調を感じる」など判断に迷う時に利用すれば、医師から適切なアドバイスを受けられる。

ポケットドクターは、参画している全国1340の医療機関で、初診後どこからでも保険適用で再診が受けられる「かかりつけ医診療」と、約60科目、150名の専門医に遠隔で健康相談を行うことができる「予約相談」の2つのサービスを提供。2016年秋からは、ヘルスケア機器から取得したバイタルデータを医師や医療機関と共有する「ヘルスケア機器連携」も開始した。

◎優秀賞(※企業名五十音順)
【株式会社イデアクエスト/非接触・無拘束ベッド見守りシステム「OWLSIGHT(アウルサイト)】

株式会社イデアクエストは、少子高齢化問題に対する解決の切り札として「人センシング技術」を用いた医療機器・福祉機器を世に送り出そうと設立されたベンチャー企業である。コアとなる人センシング技術は「生命をやさしく見つめる」というスローガンのとおり、プライバシーに配慮しながら安全な光により非接触・無拘束で人の動きを捉えられる。この技術を使ったのが、ベッド見守りシステム「OWLSIGHT(アウルサイト)」だ。

OWLSIGHTは被介護者の「立ち上がる」「柵にもたれる」など、姿勢の変化によって視認できる動きと、「もだえ」「呼吸を含む体動停止」のような視認しづらい動きの双方を検出できる。被介護者の危険な状態が検知されると、介護者のモバイル端末に通報するため、介護者の肉体的、精神的負担が軽減されるのが大きなメリット。状態の解析に使われる映像は赤外光の輝点だけで、可視光を使わないことから、プライバシーを侵さない見守りが可能となる。

既に国内の医療・介護施設はもちろん、フランス政府のプロジェクトとしてノルマンディでの実証試験も予定されている。今後、イデアクエストでは、国内の地域医療福祉ネットワークのプラットフォームとしての活用とともに、ヨーロッパ、アジア、中国でも展開を拡大していく考えだ。

【株式会社こころみ/会話型見守りサービス「つながりプラス」、親のための自分史作成サービス「親の雑誌」】

「すべての孤独と孤立をなくす」をビジョンに掲げる株式会社こころみは、健康寿命を延ばすには人の生きる意欲が重要で、人と話をすることで日々の行動が積極的になり、意欲を引き出せると考えている。そのために提供するのが、会話型見守りサービス「つながりプラス」と自分史作成サービス「親の雑誌」だ。

「つながりプラス」は機械にはできない、人間ならではのコミュニケーションサービス。初回は専属の担当コミュニケーターが必ず訪問、2回目以降は訪問した担当者が毎週2回電話する。初回の訪問で顔見知りになった担当者が電話するため、離れて暮らす家族には言いにくい悩みや体調の状態なども気軽に話せる。会話の内容は、その都度聞き書きレポートとして、メールで家族に届ける。

一方、「親の雑誌」は気軽に作れる、家族のコミュニケーションツールである。リーズナブルな価格設定で、高齢者の住まいを訪問して話すだけで雑誌に仕上がるので、煩わしさがない。インタビュー記事や写真、プロフィールなどで構成された全16ページ、フルカラーの雑誌を5冊限定で家族に届ける。2つのサービスとも、利用することで元気になるなど行動が変容した高齢者が多く、満足度は非常に高い。

【株式会社竹屋旅館/糖尿病患者も一緒に食べられる「医療×食事のイノベーションが創り出す喜びのヘルスケア」】

株式会社竹屋旅館は「医学の技術」と「おいしさの技術」の掛け算で、糖尿病患者だけでなく、健康な人もおいしく食べられるレシピを作成。20年間、サッカー日本代表を初めとする多数のプロチームを受け入れてきた経験に基づいた医学技術による調理法で、糖尿病患者も食べられるようにした。また、ホテル運営を通じた豊富な調理経験が、おいしさの技術に生かされている。

静岡県でホテルを運営、食を提供する中で、「お客様が本当に求めるおもてなしとは何か」だけを考え、顧客のニーズに対応した食を必死に追い求めてきた。そのため、当初コンテストへの応募は考えもしなかった。

しかし、「あなたたちの事業は立派なヘルスケア事業であり、もっとたくさんの人を幸せにできる」と熱くエントリーを勧める友人の声に推され、応募した。ホテルという枠を超えて、ヘルスケアの目線で見た時、ビジネスチャンスの拡がりに興奮を感じている。

受賞後、全国からレシピ活用、コラボレーションの依頼を受けるようになり、メニューの共同開発や商品開発などのビジネスにつながった。講演や取材などの機会も増え、認知度向上に大きく貢献。医療関係者から信頼されて、医療機関への食の提供機会が拡大、全国からも食べに訪れる人も増えている。

【株式会社ミナカラ/「おくすり宅配」サービス】

「おくすり宅配」は患者の自宅に薬剤師が訪問し、医薬品の提供と服薬指導を提供するサービス。従来、アクセス上の問題で、服薬治療を受けられなかった患者が安心して生きられる社会を作ろうと考えて立ち上げた。

インターネットを介在した新しい事業形態や、薬剤師等が実際に活動することで品質を担保しながら事業展開できる点が評価された。患者は日常生活の中で、いつでも薬剤師とつながり、相談できるため、安心を得られるだけでなく、薬剤師にとっても新たな活躍の機会となっている。

服薬状況をアプリケーションで管理できるのも特長だ。こうした機能により、将来的に患者が治療方針の決定に参加し、それに従って主体的に治療を受けるアドヒアランスの向上や、残薬管理の支援で医療費の適正化に寄与できる可能性もある。

医療は社会インフラの要素を持った業界。同社は患者にとって有益なだけでなく、既存の薬剤師や薬局が活動に加われる事業にすることで、将来的にサービス提供者がさらに活躍、発展する機会を作り、適切な医療サービスになるように育てたいと考えている。

 

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<連携イベント一覧>
healthcare_logo

■データヘルス・予防サービス見本市
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/dpstf2016.html

■Japan Venture Awards
http://j-venture.smrj.go.jp/

■IoT Lab Selection
https://iotlab.jp/jp/selection.html

■B Dash Ventures
http://www.bdashventures.com/

■Digital Health CONNECT
http://www.dhconnect.jp/

■Digital Health Meetup
https://www.facebook.com/DigitalHealthMeetup/

■Health 2.0
http://health2con.com/

■Incubate Camp
http://incubatefund.com/

■J HEALTH INCUBATE
https://www.facebook.com/jhealthincubate/

■Morning Pitch
http://morningpitch.com/

■EY新日本企業成長サミット
https://www.shinnihon.or.jp/seminar/summit2017/

■Startup Weekend
http://nposw.org/

■TOKYO STARTUP GATEWAY
http://tokyo-startup.jp/

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