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マクロミル 執行役員 R&D本部長 原申氏
研究開発の原点は、未来の理想像を描き、そこから逆算すること

BRANDPRESS編集部
2018/09/01

市場の常識を変えるような華々しいプロダクトやサービスが日々メディアに取り上げられる今日。その裏では、無数の挑戦や試行錯誤があったはずです。「イノベーター列伝」では、既存市場の競争軸を変える挑戦、新しい習慣を根付かせるような試み、新たなカテゴリの創出に取り組む「イノベーター」のストーリーに迫ります。今回は、インターネットを活用したリサーチやマーケティングなどのサービスで業績を伸ばしているマクロミル。同社のイノベーションを牽引するR&D本部では、AIやニューロ技術を活用した最先端のマーケティング手法を研究開発しています。その陣頭指揮を執るR&D本部長、原申氏に、短期的な収益に結びつきにくい「研究開発」という分野をビジネスとして継続させていく手法について聞きました。

 

イノベーション精神と「強迫観念」

学生時代はほとんど勉強をしていなかったのですが、マーケティングにはおもしろさを感じて比較的深くのめり込んでいました。就職について考えたとき、流通業ならマーケティングの結果がダイレクトで見える・体感できると思い、百貨店に入社しました。その中でも忙しい売場なら、新人でも最初からある程度裁量を持って大きな仕事ができるのではないかというのもあって、最も過酷だと言われていた1階の婦人雑貨売場への配属を希望しました。そこは百貨店自身がマーチャンダイジングからバイイングまですべて決めていた、いわゆる「平場(ひらば)」と言われる自主編集売場だったんですが、年に10件以上催事があったり、取扱いアイテム点数も多かったのでとにかく忙しい毎日でした。同期入社の仲間は「そんなに仕事をやらされてキツくない?」って感じだったんですが、自分の裁量でいろいろなことを経験できたので楽しかったですし、とても勉強になりました。

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もともと予想していたことではあったんですが、百貨店はやはり旧態依然としていてスピード感がない。周りの先輩と話していても、刺激を受けることが多くはありませんでした。それでも、さまざまな経験をさせてもらったおかげでビジネスのおもしろさに開眼し、将来は自分の好きな仲間たちと好きな環境で仕事をしたいと思うようになりました。すぐに起業することも考えたんですが、今まで事業を創りそれを大きく成長させる経験がまったくなかったので、まずは事業を創造・拡大する経験が必要ではないか。それなら、これから大きく成長しそうな会社に入って、みずから事業を興して拡大していくプロセスを実際に体感するのがいいのではないかと考えました。その条件に合致していて興味関心の高いマーケティング分野に位置する会社であるマクロミルに転職しました。

今も変わりませんが、当時からマクロミルは個人の想いを大事するというスタンスで、できるかできないかより、どれだけやりたいかという「意思」を重視してくれる社風でした。最初は営業職で入社し、その後は営業企画や人事部など2~3年くらいで複数の部署を経験して、その間に企業の買収・統合プロジェクトに入ったり、子会社でtoC(消費者)向けのスマートフォンアプリを開発したりするなど新規事業にみずから手を挙げてチャレンジをしていました。その後デジタルマーケティングの新しい事業を開発・運営している本社部門に戻り、そこから複数の事業をまとめる形でビジネスディベロップメント本部を創設しました。

さまざまな事業を開発・運営していく中で、短期的に売上をメイクする視点と中長期的に事業を開発する視点が往々にしてバッティングしてしまうことに気が付きました。時間とお金をある程度投資しないと、一定規模の新規事業は育ちません。しかし、既存の事業も同じ部門でマネジメントしていると、どうしてもそこでの数値目標の達成が優先されてしまい、中長期視点での研究開発や事業開発が進まない事態に陥ってしまいます。そこで研究開発・事業開発に特化する部門を作るべきだという意見を周囲に語り続けて、約2年越しでR&D本部の立ち上げに至りました。これまでいろいろな経験を積ませてもらいましたが、自分の幅を広げて変化し続けていないと不安という強迫観念みたいなものを常に感じています。世の中が常に変化している中で、これまでと同じことをやっていたら視野の狭い人間になってしまうのではという危機感を常に強く持っています。

 

マーケティングの未来像は「深く・広く」

研究開発は、まず未来の理想の姿からバックキャスト(逆算)し、その理想を実現するための計画を立ててそれを推進するという考え方で取り組んでいます。例えば、当社のミッションは「消費者を理解すること」です。消費者を理解するための手法や技術もこれまでのアンケート調査やインタビュー調査だけでなく日々進化しています。その進化の先にどんな理想の姿が実現しうるのかを考え抜きます。その際にとても大事なのは、その進化がどれくらいのスピードでどのレベルまで進みそうなのかを見極めることだと考えています。手法や技術の進化がどのタイミングで・どこまで実用化できるのかという極力具体的な将来像をイメージし、研究開発を始めるタイミングや投資を拡大するタイミング、具体的に事業参入するタイミングを見極めるように努めています。そのために、さまざまな情報のインプットと同時に頭の中でのシミュレーション(思考実験)を重視しています。

 

子会社であるセンタンの技術を使ったニューロマーケティングリサーチや、NECのAI技術を活用したマーケティングソリューションの開発に取り組んでいますが、われわれのミッションは本質的には「消費者を理解すること」なので、そのための技術や手法は常に進歩させていきたいと思っています。マクロミルはもともと紙で行っていた調査をインターネット調査に置き換えました。つまり、これまで行ってきたのは「アンケート手段」のイノベーションだったのですが、これからは「消費者理解手法」のイノベーションを起こしていきたい。アンケートだけではなく、もっと深く広く消費者を理解できるような手法を研究・開発していきたいと思っています。

 

これからの消費者理解のポイントは「深く、広く」です。「深く」という観点でいうと、ニューロマーケティングリサーチを活用すればアンケートやインタビューでは洞察しずらい消費者の本音をより深く理解することができます。「広く」というところではAIが活用できます。例えば、ある人が回答したアンケートデータそれ自体をAIが学習する。すると、その人を擬似的に模した人格みたいなものができあがって、それを活用すれば毎回本人が回答しなくても、アンケート回答AIのようなものができあがる。AIが得意とする予測や推定でその人が回答しそうな内容を予測・推定する。もちろんさまざまなハードルがありますが、理論的には可能な話です。NECの視線推定技術やニューロリサーチの技術を活用して、予測や推定のもととなるデータを充実させることで、その精度も向上させていきたいと思っています。

 

これが実現すれば、お客様から依頼を受けて、アンケート表を作成してモニターに配信し、回答してもらってデータを集計分析するという従来のプロセスは必要なくなるはずです。クライアントはマクロミルのAIに直接疑問を投げ掛けたり、ディスカッションをするような感覚で消費者理解をすることができるようになります。そういう革新的な世界を目指したいと考えています。

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「相手の立場になって考えること」が私のスモールイノベーション

他者と協業する場合は、見えている・実現したい未来像がある程度同じところと組まないとうまくいきません。しかし、それらが共有できていても、そこに向かうプロセスで徐々にズレが生じてくることがあります。やはり、最も難しいポイントは、短期的な収益のマイルストーンをどう置いていくかという点です。そのプロジェクトに投資を続けるためには、短期的に目に見える成果(売上)を出すことで、お互いの社内をある程度納得させなければなりません。それによって研究開発・事業開発の本質とはズレてくるケースがあります。このように短期と中長期のバランスをどう取るのかが最も難しいポイントです。これは協業でなく自社が単独で研究開発・事業開発を推進する際も同様で、イメージしている未来はいっしょでも、短期的な社内説得ができずにつぶれてしまうケースは今まで何度もありました。

 

その中で気づいたのは、至極あたりまえのことなんですが、周りの人をすぐに変えることはできないので、自分自身が変わらなければいけないということです。R&D本部を立ち上げた時もそうなんですが、普段現場を見ずにテクノロジーに関する知識のないボードメンバーに、新しい技術を活用してこういうことをやるべきだという話をいきなりしても通じないんですね。ボードメンバーだから何でもわかっていて当然という私のスタンスがまちがっていたんです。だから、まずは「共通の認識」を作れるように、背景からその技術が今できること・できないこと、今後できるであろうことなど、細かい内容を時間をかけて説明し理解してもらうことから始めるようにしました。いま考えるとまったくもってあたりまえの話ですが、人間、熱が入り過ぎるとあたりまえのことにきづかなくなるものです。あらてめて、謙虚に相手の立場になって考えることが大切だときづいたのは、恥かしながら私の中での小さなイノベーションだったと思います。

 

20代の頃は「世の中を変える」とか大それたことを考えていましたけど、今は規模は問わずに人の生活を豊かにしたり、便利にしたり、ちょっとおもしろくすることに貢献したいなと思っています。今の仕事はtoB(企業向け)ですが、近い将来、直接的にエンドユーザー、消費者に対してのサービスを創っていきたいですね。

 

 

■会社概要:マクロミル

2000年に創業。世界15カ国、40以上の拠点を展開。マーケティング課題解決のためのネットリサーチや幅広いソリューションを提案する、グローバルマーケティングリサーチカンパニー。

 

■プロフィール:原申

新卒で百貨店に入社後、2005年にマクロミルに入社。 営業、企画、人事などの部門を経て、複数の新規事業や新規サービスの立ち上げとそのグロースに従事。 現在は同社執行役員 R&D本部長と、株式会社センタン 代表取締役副社長を兼任。

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