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NowDo 鈴木良介氏
「日本一のサッカースクールを作りたい」―――本田圭佑の夢を実現する仕事

瀬川泰祐
2020/04/10

市場の常識を変えるような華々しいプロダクトやサービスが日々メディアに取り上げられる今日。その裏では無数の挑戦や試行錯誤があったはずです。「イノベーター列伝」では、既存市場の競争軸を変える挑戦、新しい習慣を根付かせるような試み、新たなカテゴリーの創出に取り組む「イノベーター」のストーリーに迫ります。今回話を伺ったのは、日本最大のサッカースクール、ソルティーログループの共同創業者で、現在はスポーツ施設や指導者などのマッチングサービスを提供する「NowDo」を、サッカー元日本代表の本田圭佑選手と共同経営する鈴木良介氏。スポーツ界の発展において真に必要なこととは何かを伺いました。

 

プロサッカー選手の夢破れ、指導の世界へ

小学4年生のときに、父親の転勤で静岡県沼津市の学校に転校したことをきっかけに、サッカーを始めました。静岡はほんとうにサッカーが盛んな地域で、ほとんどの家庭の玄関にサッカーボールがあるような環境です。転校してすぐに、「サッカーをやらないと友達の輪に入れないな」と感じ、サッカーを始めることにしました。その後、中学・高校とサッカーを続け、静岡学園では全国高校サッカー選手権大会にも出場することができました。

高校卒業後にはプロになるつもりでいましたが、結局、大学へ進学するという選択をしました。それがこれまで支えてくれた両親を安心させることにつながると考えたからです。大学でもサッカーを続けましたが、2年生のときに大きな怪我をしてしまい、プロサッカー選手になるという夢はそこで潰えました。いま思えば、自分自身がプロという目標に本気で向かっておらず、その中途半端な姿勢から起きた怪我だったのではないかと感じています。

怪我をしてからは、学生コーチとして大学のサッカー部に残りました。選手から指導者、そしてマネジメント側にシフトチェンジしたわけですが、ようやくサッカーというスポーツを俯瞰する新たな視点を持つことができるようになりました。特に、組織の作り方や、目標に対してどのようにアプローチしていくのか、そのためにチームに何を伝えていくべきかといったことを学ぶことができたのは、その後の人生に大きく影響を与えたと思います。

葛藤と戦った下積み時代

大学卒業後は、サッカースクールや施設の運営に携わるをする機会をいただきました。それまでサッカーに育ててもらった身ですし、子供たちにサッカーのすばらしさを伝えていきたいという気持ちを持っていたので、新しい目標、夢に向かう意欲が大きくなっていきました。しかし、そこで直面したのは、わたしにはプロサッカー選手としてのキャリアがないという事実でした。

例えば、プロのキャリアを持つコーチとわたしとでは、親御さんからの信頼も違います。当時はそれでもがむしゃらにがんばっていましたが、「どんなにがんばっても乗り越えられない部分が多いのではないか」と感じたことを覚えています。

しかし一方で、わたしは、パソコンを使った作業や事務などの細かい業務を得意としていたので、多くのサッカーコーチが苦手とするこれらの役割を積極的に担うことで、このような人たちをうまくマネジメントしていくことができれば、自分にもまだ活躍の場があるのではないか、そしてもっと良いサービスが提供できるようになるのではないかと考えました。そこで、一度スクール事業から離れて、ベンチャー企業の中で、経営やマネージメントをイチから学ぶことにしました。

いまでも、プロサッカー選手の経歴を持つ人といっしょに仕事をしていますが、自分が夢から逃げた経験があるからこそ、あきらめずにプロになった人たちを心からリスペクトしています。また、なんであのとき、夢から逃げたんだろうという悔しさが、いまでも心の片隅に残っています。

本田圭佑選手との出会い

ベンチャー企業では、資金調達や株主対応などさまざまな経験をさせてもらいましたが、そんなときに、ひょんなきっかけで、本田圭佑選手と出会うことになりました。それは2010年、ちょうど南アフリカのワールドカップの少し前のことでした。当時、本田選手はすでに海外で目覚ましい活躍を見せており、スポーツの世界では知らない人はいないほどの存在。そんな本田選手の関係者から、「近々、日本代表戦のために本田選手が帰国するんだけど、そのタイミングでリフレッシュゲームをやりたいと言っているから、グラウンドとメンバーを手配してほしい」という依頼を受けました。そこで初めて本田選手と会い、いっしょにボールを蹴りました。

リフレッシュゲームとはいえ、半ばガチのサッカーでしたけどね。その際、「場を盛り上げなきゃ」という指導者気質が出てしまったのか、大きな声を出して雰囲気を作ろうとしていたところ、それを見た本田選手が、「あの人、何やっている人なの?」とわたしに興味を持ってくれました。そこで、本田選手に自分がこれまでやってきたことや、これからやりたいことを話したら、本田選手も「実は、現役のうちから子供向けのサッカースクールをやりたいので、手伝ってもらえないか」と相談されたのです。正式に依頼されたのは、ちょうど南アフリカのワールドカップが終わったころだったと思います。

サッカースクールの立ち上げで見えてきた課題

大阪のフットサルコートからスタートした「ソルティーロ・ファミリア・サッカースクール」は、今でこそ、全国74か所、会員数は5,000人を超える日本最大規模のサッカースクールとなりましたが、事業をスタートした当時は、ほんとうに大変でした。サッカースクールは、地元の方々の協力なくしてスタートすることはできません。そこで、地域の方々に挨拶しに行き、時には「サッカースクールなんか立ち上げられては困る」と言われ、会ってもらうことすらままならないところから、一つ一つ課題をクリアして新しいスクールを徐々に全国に展開していきました。

こうして長年、スクール事業にかかわってきたのですが、わたしは2つの大きな課題があることを感じていました。

まず1つ目は、指導者の給料が上がらないということです。なぜ給料が上がらないのか。スクール事業は、子供たちからの月謝で成り立っています。もし指導者の給料を上げようとすると、スクール生を増やすか、スクール生からいただく月謝を値上げするかの2つしか選択肢はありません。でも、スクール生を増やすといっても、指導者1人当たりの目が届く範囲には限界があります。では月謝を上げればいいのかといったら、これも難しい。わたしたちはサッカーの普及活動をしているわけです。サッカーをやる子供たちを増やしたいのに、月謝を高く設定してしまえば、高い月謝を払える人しかサッカーができないというおかしな構図になってしまいます。

そのため、結局は指導者にしわ寄せが来てしまうのです。その結果、多くの指導者は30歳くらいになると辞めてしまいます。家庭を持ったり、子供が産まれたりしたタイミングで、このままでは生活していくことができないという理由で、指導の現場から離れてしまうのです。この現状は、スポーツ界にとって大きな損失です。大学を卒業してから10年近くも指導者としてがんばってきて、ようやく指導のノウハウが溜まったところで、その人たちがいなくなってしまうのですから。

もう一つの課題は、施設の稼働率です。施設運営で売上を上げるためには、施設の空き時間をいかに少なくできるかにかかっています。われわれは三井不動産の協力を得て、千葉・幕張で「ZOZOPARK(ゾゾパーク)」を運営しているのですが、この稼働率を上げることは事業成功の大きなポイントでした。もちろん、都内であればたくさん施設を利用してもらえるのですが、地方や郊外になると、空きを埋めるために工夫をしないといけません。午前中に誰もいないグラウンドを眺めながら、何か良いアイデアはないものかと、常に考えていました。

指導者・施設・ユーザーのマッチング事業

これらの課題をまとめて解決することを目指したのが、「NowDo」というスポーツマッチングサービスです。指導者、施設、そしてユーザーの3者をマッチングするプラットフォームができたら、すべての課題が解決できるんのではないかと考えたのです。このマッチングにより、前述した、指導者と施設の課題の解決はもちろん、ユーザーにとっても有益になると考えました。

例えば、サッカースクールやサッカーチームでは、大勢の中でトレーニングするため、上手でない子供は、置き去りにされてしまうことがあります。ボールに触れないからどんどんスポーツが嫌いになってしまうような子も、残念ながらいるのが現状です。そういった子供たちでも、少人数制で、コーチから直接指導が受けることができれば、もっとスポーツが楽しめるようになりますよね。そのようなサービスを求めている人たちがたくさんいるのではないかと考えました。

ただし、サービスのイメージは固まりましたが、われわれはそれまでアプリケーションを作った経験は一切ありませんでした。ITの知見やノウハウがまったくない中でこの事業はスタートしたのです。最初は外部に委託してアプリケーションを開発していましたが、うまくいかず、このサービスをローンチさせることができませんでした。また、当初のプロジェクトメンバーは、本田選手とわたし以外は辞めていってしまいました。いま振り返れば、この経験はほんとうに良い勉強になったと思います。

スポーツ指導の世界にイノベーションを

NowDoは、スポーツ界の長年の課題だった、指導者を活かすという意味で、ほんとうに期待しています。例えば、子供たちのプレー動画や日々のトレーニングデータを見て、本田選手が「この人はこういう努力をしたほうがいい」と言ってあげるとします。トップアスリートからアドバイスをもらえれば、子供たちは何よりも大きなモチベーションになりますよね。子供たちにとって、トップアスリートの言葉は、それだけ大きな価値があるのです。それに彼らは努力の仕方を知っているので、正しい方向に導いてあげることが期待できます。

しかし、本田選手のようなトップアスリートが、常に子供たちを見てアドバイスし続けることはできません。ここに、これまで指導経験を積んできた人たちの活躍の場があると思っています。

学習塾でもチューターという役割の人たちがいますが、そのような役割として、子供たちをフォローしてあげることができれば、オンライン上での仕事を増やすことができるのです。ITの力を活かせば、オンライン上での指導ができるため、地域格差をなくすことができますし、将来的には睡眠データや運動データを取って数字として可視化して、直接会うことのできない子供たちがどのように成長しているかを把握したり、日々のコンディショニング管理に活かしたりすることもできると考えています。

いまスポーツの世界は、スタジアムビジネスをはじめ、スポーツ界のトップの部分に世間の目が向いていますよね。大手企業もそこにビジネスチャンスを見出しています。しかし、それを支えていく育成・普及環境にこそ、もっと目を向けなければならないと思っています。そこはビジネスになりにくい部分だからこそ、われわれがしっかりとスポーツ界の土台となる環境を作っていけたらと思っています。

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