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シェアリングファクトリー 代表取締役社長 長谷川祐貴氏
町工場を救え! 遊休設備のシェアリングという新発想

市場の常識を変えるような華々しいプロダクトやサービスが日々メディアに取り上げられる今日。その裏では、無数の挑戦や試行錯誤があったはずです。「イノベーター列伝」では、既存市場の競争軸を変える挑戦、新しい習慣を根付かせるような試み、新たなカテゴリの創出に取り組む「イノベーター」のストーリーに迫ります。今回話を伺ったのは、町工場向けに遊休設備のシェアリングエコノミーのサービスを展開するシェアリングファクトリーの代表取締役社長、長谷川祐貴氏。工場間で設備や機器などの貸し借りを可能にするというユニークなアイデアの発案に至るまでの道のりをうかがいました。

 

ものづくりの町で育ったことが原点

小学生のころから算数が得意で、高校でも理数コースを選択していました。大学も理学部に進むという生粋の理系です。学生時代は、本を読みあさっていました。ジャンルを限定せずに、“情報をインプットすること”を目的にあらゆる種類の本を読んでいました。読書を通して出会った偉人の中で特に感銘を受けたのは坂本龍馬です。彼のように「生まれたからには命をかけて何かを成し遂げたい」という想いは、いまでも常に心の中に持っています。

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自分の将来について真剣に考えるようになったのは、就職活動がきっかけでした。ものづくりが盛んな名古屋で育ったこともあり、「ものを作ったり売ったりすることで人の役に立ちたい」という思いが強くなり、製造業に絞って就職活動を展開。愛知県内での就職を考えていたこともあり、自動車用点火プラグやセラミックスの製造・販売を手がける日本特殊陶業へ入社しました。

 

中小企業診断士の資格取得に挑戦

入社後に配属されたのは半導体パッケージ事業部でした。不良の改善などを担当したほか、新工場の立ち上げという大きな仕事を任されたこともありました。

日本特殊陶業の中核事業は、自動車のエンジンで使用される点火プラグやセラミックスの開発・製造です。それに比べて、主にパソコンやスマートフォンなどに使用される半導体を開発・製造する半導体パッケージ事業は、韓国や台湾をはじめとする海外メーカーとの競争が激しく、経営上の課題を抱えていた時期でした。

30歳を過ぎたころ、思い立って中小企業診断士の資格を取ることを決意しました。半導体事業のキャリアしかない自分の将来に対して危機感を抱いていたこともありますが、経営について学びたいとの想いもあったからです。

中小企業診断士の資格を取得するには、一般的には1,000時間以上の勉強が必要と言われているそうですが、わたしはそれ以上に時間を費やしたと思います。終業後と休日にコツコツ勉強しましたが、正直、辛かったですね。合格はしたものの、この資格がエンジニアの仕事に役立っているとは言えませんでした(笑)。しかし、同じ資格を持つ人との交流ができたことと、経営についての知識を習得できたことは大きな収穫となりました。

 

「人生をかけられる仕事をやりたい」という想い

2016年には、ずっと懸念していたことがついに現実になってしまいました。わたしが担当していたオーガニックパッケージから撤退することになったのです。

別の業務を担当してまもなく、「ニットク新規事業創出プロジェクト(通称:DNAプロジェクト)」という社内ベンチャーの公募がありました。わたしは、迷わずエントリーしました。50人ほどが公募しましたが、ワークショップなどの選考を経て15人に絞り込まれ、その後最終プレゼンに臨みました。

わたしたちのチームは、新規事業を創出するには「自分たちが人生をかけてやりたいと思える仕事でないかぎり、成功はしない」と考え、昼夜を問わず仲間たちとアイデアを出し合いました。わたしは、会社が半導体のオーガニックパッケージから撤退したことで、社内に自分のキャリアを活かせる場所がなくなってしまったことを残念に思っていました。そんな中、1つのアイデアが浮かびました。製造業の世界では、同じような状況が頻繁に起こっているのではないか。もしそうなら、そこで働いていた人のスキルや、これまで稼働させてきた設備や機器などがあまっているはずなので、それらを活用する仕組みを作れないだろうか。

ちょうどそのころ、テレビのニュースや新聞で「民泊」が話題になっていました。“シェアリングエコノミー”ということばを耳にする機会が増え、個人間のシェアリングに焦点を当てた新規ビジネスが次々と誕生していることも、報道を通じて認識していました。将来的に所有ではなく共有の流れが来ることはまちがいないと、わたし自身も確信していました。

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町工場が新たな設備投資をする際、それは社運をかけた決断となることが多々あります。もし気軽に設備を貸し借りできる仕組みがあれば、経営上の負担が軽くなり対応のスピードも早められるはずです。こうして製造業とシェアリングを組み合わせた新サービスというアイデアにたどりつきました。

早速、現地調査を行うために、愛知県内の工業団地にある町工場を訪問しました。最初に訪れた工場で起きた出来事は、いまでも鮮明に記憶しています。数名の社員が働く町工場の社長さんにヒアリングしていたとき、たまたま大手の取引先から電話があり、「製品の仕様が変わったので、申し訳ないけどお宅への発注はなくなってしまったよ」と告げられたそうです。社長は頭を抱えて、「このままでは、来月から収入がゼロになってしまう…」と嘆いていました。

その瞬間、日本の製造業の産業構造が見えた気がしました。大企業から下請け、孫請けへと発注が下りてきて、最終的には小さな町工場がものづくりを支えています。ところが、上流で製品の仕様変更などがあると、下流の町工場では生きるか死ぬかの事態に見舞われてしまうのです。「良いものをつくれば売れる」という時代から、変化に対していかに柔軟に対応できるかが問われる時代に変わったことを目の当たりにしました。

 

専門スキル人材のシェアリングも視野に

社内ベンチャーとして設立した新会社シェアリングファクトリーは、2018年5月に本格的に始動しました。遊休設備を抱える工場と新たな機器を求める工場とをマッチングさせ、企業間で貸し出しや売買ができるサイトを立ち上げたのです。2019年2月時点では、約300社が登録しています。「このようなプラットフォームが欲しかった」という声もたくさん寄せられており、実際に貸し借りや売買も成立しています。

製造業の世界では、設備や機器に関して自前主義の風潮があるうえに、企業向けのシェアリングエコノミービジネスは前例も少ないので不安もありましたが、現在は手応えを感じています。今後は、設備や機器のシェアリングだけでなく、専門スキルを持った人材のシェアリングにも発展させていきたいと考えています。

新しいことにチャレンジするとき、失敗を避けるためにリスクを洗い出すことも大切ですが、そのリスクを解消するための方法を考えてばかりでは前進できません。そのような作業自体がブレーキになってしまいます。立ち止まる時間を極力減らし、とにかく人の役に立つことを人生をかけてやってみることが重要だと思います。

 

■会社概要:株式会社シェアリングファクトリー
本社所在地:愛知県名古屋市
設立:2018年3月
代表者:代表取締役社長 長谷川祐貴
資本金:500万円
事業内容:製造業における設備・計測機器のシェアリング、遊休資産の売買、スキル・人シェアリング、仕事マッチング

■プロフィール:長谷川祐貴(ハセガワ・ユウキ)
1998年日本特殊陶業株式会社入社。半導体部品事業部に配属後18年以上にわたり、オーガニックパッケージと呼ばれるパソコンのCPU向け商品の歩留まり改善や工場の立ち上げ等のし術部門を主に担当。2013年には中小企業診断士の資格を取得。その後、2016年のオーガニックパッケージからの撤退を機に社内新規事業プロジェクトに公募。2018年に設立した社内初の新規事業子会社シェアリングファクトリーに従事。

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