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凸版印刷 メディア事業推進本部 副本部長 亀卦川篤氏
印刷会社の異端児が牽引する電子チラシサービス「Shufoo!」の未来

BRANDPRESS編集部
2018/10/30

市場の常識を変えるような華々しいプロダクトやサービスが、日々メディアに取り上げられる今日。その裏には、無数の挑戦や試行錯誤があったはずです。「イノベーター列伝」では、既存市場の競争軸を変える挑戦、新しい習慣を根付かせるような試み、新たなカテゴリの創出に取り組む「イノベーター」のストーリーに迫ります。今回話を伺ったのは、全国各地のスーパーやドラッグストアなどのチラシの閲覧ができるWebサービス「Shufoo!(シュフー)」を運営する凸版印刷の亀卦川篤氏。紙への印刷が主力事業である印刷会社において、長らくデジタル事業に身を置く同氏は異端児と言えるかもしれません。「Shufoo!」の成長を牽引する亀卦川氏の素顔に迫ります。

 

商売人の家に生まれ、働くことが身近だった幼少期

学生時代は、勉強よりもアルバイトに明け暮れていました。新宿の三越で働いていたのですが、売り場の仕入れから返品、新規店舗の立ち上げまで、あらゆる仕事を経験させてもらいました。仕事がほんとうに楽しかったので「早く社会に出て働きたい」と思っていましたね。

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わたしが“働くこと”に対して抵抗がないのは、実家の家業が影響しているのかもしれません。実家では傘の製造・卸業を営んでいたため、商売がとても身近なものでした。幼少期から傘の値札付けなどの仕事を手伝い、報酬としてお小遣いをもらうという習慣が身に付いていたんです。働くことそのものが、わたしにとって生活の一部でした。傘作りをしていた両親のDNAを受け継いでいるのだと思います。

 

商業印刷で鍛えられた新入社員時代

凸版印刷に就職した理由は2つあります。1つは、印刷を軸に多種多様な製品を作る“メーカー”としての側面を持っており、セールスプロモーションに力を入れている点が魅力でした。もう1つは、就活時代に凸版印刷の現役社員である大学OBや、競合である他の印刷会社に勤めている先輩から「凸版印刷はいい会社だよ」というアドバイスをいただいたことです。ちなみに、凸版印刷の本社が自宅から近かったことも、志望動機に含まれています(笑)。

凸版印刷に入社して最初に配属されたのは商印事業部でした。同事業部ならば、カタログなどの印刷物だけでなく、企画からかかわったり、キャンペーン全体を担ったりと印刷以外にも幅広い仕事ができることを知り、みずから希望しました。

配属直後に担当したクライアントは日産自動車でした。いきなり大手企業を担当させてもらい華々しいデビューと思われるかもしれませんが、実は配属されたその日から仕事漬けの生活が始まります。ちょうど新車の発表前のタイミングだったので、その制作物でてんてこ舞いだったんです。新車のカタログを制作するとなれば、当然秘匿性が求められるので精神的な負担も大きく、ハードな毎日を過ごしていました。

とにかく毎日忙しくてたいへんでしたが、制作物が世に出たときの達成感は唯一無二。初めて作ったカタログは、記念として今も手元に置いてあります。あのころに戻りたいとは思いませんが、この新卒時期に培った経験は、人生の糧になっていますね。

 

インターネット黎明期に飛び込んだWebサービスの世界

わたしが本格的にデジタルにかかわるようになったのは1994年からです。新卒時から担当していた日産自動車のホームページの立ち上げプロジェクトに携わったのが、すべての始まりでした。余談ですが、日本で初めて企業の公式ホームページを作ったのは日産自動車なんです。

当時はインターネット黎明期。データ通信速度がわずか2,400bpsのモデムを使用しており、40秒の動画をダウンロードするのに40分かかっていたような、今では信じられない通信環境の中で作業をしていました。

新しい世界に足を踏み入れたことを実感したのは、プロジェクトにかかわっていた世界屈指のWebマスターたちとの出会いです。当時は「HTML」や「Java」なんて聞いたこともない言葉でした。そんな単語が飛び交う中での仕事は、実に刺激的な毎日でした。それまで版下を作っていたわたしが、デジタルやインターネットにかかわるなんて思いもよらない展開でしたね。

その後も楽天やヤフーなど勢いのあるITベンチャー企業に携わる企画営業の仕事を任せられたこともあり、デジタルは身近な存在になりました。紙のビジネスが主体の印刷会社の社員にしては、デジタルやWebに対する抵抗感は低いタイプだったと思います。自分としては普通に働いていたつもりなのですが、周囲からすると、聞いたことのないカタカナ言葉を使って話すわたしは異質だったらしく、「宇宙人のようだ」と上司に言われたこともありました(笑)。

 

“巡り合わせ”と“チームワーク”

凸版印刷でWebチラシ配信サービス「Shufoo!」のプロジェクトがスタートしたのは2001年のこと。当時のわたしは、サービスの立ち上げにかかわっていたわけではないのですが、同じくデジタルに携わる同志として気になっていました。何より「Shufoo!」は社内でもかなり特殊な存在。企画段階では、印刷物としてのチラシに取って代わる事業と見られ、「輪転機をなくす気か!」という声もあったほどです。当時のプロジェクトチームはかなり苦労したはずです。

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2010年にわたしが「Shufoo!」の担当になってからも、さまざまな苦難が待ち受けていました。アプリの仕様を一新したときには「使いにくい」という低評価のレビューが大量に投稿され、炎上してしまったことがあります。当然、社内でも大問題に発展。凸版印刷はBtoBの業態なので、ユーザーや生活者から直接お叱りの声が来ることは、これまでほとんどありませんでした。そんな状況で、凸版印刷初のコンシューマーサービスの「Shufoo!」が大炎上すれば、ナーバスになるのは当然ですよね。取引先からも存続を心配されてしまいましたが、なんとか乗り越えてきました。

事業としての前例がなく、手探りでサービスを運営しているので、今も試行錯誤することはあります。それでも、凸版印刷の伝統である助け合いが徹底されているため、チーム全員でトラブルに立ち向かえるのはすばらしいことです。チームの存在は、ほんとうに心の支えになります。

また、凸版印刷には「新しいことに挑戦する」という社風があり、「Shufoo!」という異端なサービスを受け入れるだけの度量があることも、サービスを続けてこられた大きな理由です。現在「Shufoo!」は、11万2,000店舗のチラシを配布し、ユーザー数は月間1,100万人。社内でも、一定の評価を得ています。先輩たちが「凸版印刷はいい会社だよ」と言っていた意味が、身にしみてわかりますね。

わたしたちには「生活者の暮らしを豊かにしたい」という大きな目標があります。その目標を達成するために、新たな可能性を模索中です。例えば「Shufoo!」と地図情報サービスの「マピオン」を利用している生活者のデータを活用し、より個人の生活に即したサービスの仕組みを考えています。例えば、「買い物のついでにカフェに行く」という行動パターンを持つ人がリアルの世界で移動を開始したとき、近隣にあるカフェの場所をスマホが教えてくれるというようなサービスです。生活者一人ひとりの「コンパス」になれるような存在を目指しています。

 

■会社概要:凸版印刷株式会社
本店所在地:東京都台東区
設立:1900年(明治33年)
代表者:代表取締役社長 金子眞吾
資本金:1,049億8600万円(2018年3月末現在)
従業員数:5万1,210名(2018年3月現在)
事業内容:「印刷テクノロジー」をベースに「情報コミュニケーション事業分野」「生活・産業事業分野」「エレクトロニクス事業分野」で幅広い事業活動を展開

■プロフィール:亀卦川篤(きけがわ・あつし)
1991年凸版印刷入社。大手自動車会社の営業として販促、プロモーション、1994年よりインターネットサイトの立ち上げ、企画、運営を担当。その後、新事業開発や企画営業に携わる。2006年(株)博報堂との合弁でCRMエージェンシー設立に参画し、取締役に就任。2010年に帰任し、主に電子チラシサービス「Shufoo!」を中心としたデジタルメディア事業の営業から企画まで数々の新規プロジェクトに従事。2015年4月より日本初のインターネット地図情報サービス「Mapion」を運営する(株)マピオンの取締役も兼任。

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