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放送作家・プロデューサー タイズブリック 代表取締役 伊藤滋之氏
伝説のテレビ番組「筋肉番付」の放送作家による新たな挑戦 “スポーツの言語化”

BRANDPRESS編集部
2018/10/22

市場の常識を変えるような華々しいプロダクトやサービスが日々メディアに取り上げられる今日。その裏では、無数の挑戦や試行錯誤があったはずです。「イノベーター列伝」では、既存市場の競争軸を変える挑戦、新しい習慣を根付かせるような試み、新たなカテゴリの創出に取り組む「イノベーター」のストーリーに迫ります。今回話を伺ったのは、放送作家・プロデューサーの伊藤滋之氏。スポーツ番組をメインに活動し、「筋肉番付」や「GET SPORTS」など数々の人気番組を手がけてきました。2016年からは、スポーツを言語化するプレゼンショー「ALE14」で新境地を開拓。「現状維持は怖いこと」と語る伊藤氏のチャレンジ精神あふれる放送作家人生をたどります。

 

スナックでの出会いが放送作家への道を拓く

30年以上放送作家を続けていますが、実はこんな仕事に就くとは夢にも思っていませんでした。上京した当時はアルバイトに精を出すこともなく、毎日のようにご飯の美味しい近所のスナックに入り浸っていたんです。

「入り浸っていた」と言っても貧乏学生なので、ただ座っているだけ。なんで座っていたかというと、常連客がご馳走してくれるからです(笑)。その代わりに、ご馳走してくれた人の仕事をアルバイト感覚で手伝ったりしていました。ご馳走目当てではありましたが、いろんな人と会って話すのが好きだったので、とても楽しい時期でしたね。

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そんな中、スナックで若い放送作家の方と出会いました。その方はとても多忙だったので手伝いを頼まれるようになり、放送作家のアシスタントのようなことを始めたのが、テレビ業界に入ったきっかけでした。恥ずかしながら、何かすごい大志を抱いていたわけではなかったのです。

ただ、大学に入学するころから「スポーツの魅力を伝える仕事とかいいなぁ」とぼんやりと考えてはいました。高校までバスケットボールをやっていたこともあり、スポーツは大好きだったんです。そのぼんやりとした思いが、テレビ業界の人と出会ったことで「テレビでスポーツの魅力を伝えてみたい」と、はっきりとした考えへと変わっていきます。そうして、「スポーツ番組の放送作家」への道を歩み始めることになりました。

 

どうすれば職に就けるかを見つけることが放送作家への第一歩

駆け出しのころは、企画書や台本をテレビ局に届けたり、先輩作家が口頭で伝えるセリフを手書きで書き留めたりしていました。パソコンも普及していない時代だったので、今思うとアナログな仕事ばかりですね。でも、そういう雑用をやっている中で、先輩作家たちの原稿の書き方や企画の考え方を“盗めた”ので、いい修行になりました。

あと、先輩たちの好きなタバコを一通りカバンの中に入れておくなんてこともしていましたね。そうするとお使いを頼まれたときにすぐ渡せるので「気がきくやつだ」とまた声を掛けてくれるようになる。しかも、先輩はタバコ代のお釣りはいらないと言ってくれて、お駄賃にもなる(笑)。そうやって、泥臭くテレビ業界に潜り込んでいった駆け出し時代です。

よく、若い人に「どうすれば放送作家になれますか?」と聞かれるのですが、「なり方を自分で見つけることから、放送作家としての素質が求められているんだよ」と答えています。放送作家になる方法は千差万別で、答えがあるものではありません。

自分が置かれた状況を分析して、どうすれば目的を達成できるかを考えるしかない。こうした思考を持つことは、放送作家に限らずあらゆる仕事において大切ではないでしょうか。

 

役割がなければ自分で作る

下積み期間はあったものの、バブル期だったこともあり比較的すぐに放送作家の仕事をいただけるようになりました。というのも、当時は放送作家が志すジャンルは90%が「バラエティ」。スポーツ番組に売り込む放送作家は珍しかったんです。

ただ、会議に行っても「スポーツ番組の放送作家」は過去にほとんど例がないので、明確な役割がないことが多々ありました。だから「これはわたしがやります」と、自分で自分の役割を作ることがほとんどでした。「みずから役割を作る」という考え方を若いころに身に付けられたのは、長く放送作家を続けるうえでいい経験だったと思います。

スポーツ番組をメインにたくさんの仕事をしてきましたが、強く印象に残っているのが「最強の男は誰だ!? 壮絶筋肉バトル! スポーツマンNo.1決定戦」(TBS)です。野球やサッカーなど多彩なジャンルのスポーツ選手が、跳び箱や綱引きなどシンプルかつフラットな条件の中で競う。そうすることで、個々の選手の特長が明確になり、アスリートのすごさを伝えることができました。「これこそが、自分のやりたかったことだ」と思えた仕事でもあります。

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スポーツを言語化する難しさと意義

「アスリートのすごさ、スポーツの奥深さをどうしたらもっと多くの人に知ってもらえるか」は、放送作家人生の中で大きな自分のテーマです。そして、その1つの答えとして生まれたのが、2016年にスタートした「ALE14」というリアルイベントです。これは、スポーツを“言語化”するプレゼンショーです。

スポーツの世界、特にトップアスリートの水準では、技術が感覚的に伝えられるケースも多く、それを明確な言葉で伝える、つまり言語化するのは簡単なことではありません。だからこそ、言葉で伝えることに全力で取り組んでみようと思いました。

初めて会ったとき、「正直、言葉で伝えるのは難しいです」と言っていたK-1チャンピオンの武尊選手は、真摯に言語化という作業と向き合い、次に会ったときには、きちんと自分の中にあるメカニズムをわかりやすく言葉で説明してくれました。

言語化することで論理化され、再現性が高まります。つまり、トップアスリートの感覚や技術を言葉で伝えることで、日本のスポーツレベルが底上げされるはずです。選手でない人でも競技の奥深さに触れることができ、新たな視点でスポーツを楽しむことができます。プレゼンをする本人にとっても、自分のパフォーマンスを客観的に見直し、さらなる成長へつなげるきっかけにもなるという声もいただいています。

 

“現状維持”は怖いこと

仕事を続けていくうえで、常に心掛けていることがあります。それは、“現状維持にダメ出しすること”です。

ようやく放送作家の仕事にも少し慣れてきたころ、みずからレギュラー番組をいくつか降板させていただいたことがありました。なぜなら、現状維持が怖くなったからです。先輩たちにはあきれられ、「もう帰ってくる場所はないぞ」と突き放されました。当然です。もし今の自分が先輩だったら、もっときつい言葉を浴びせかけたかもしれません。でも当時は、そのままでいようとする自分が何よりも怖かったんです。

しばらくすると、そんな自分にまた声を掛けてくれる人たちもいました。実は、そのタイミングで「スポーツマンNo.1決定戦」をいっしょにやるチームとも出会えたんです。現状維持に満足していれば「スポーツマンNo.1決定戦」にも携われていなかったでしょう。もしかしたら「ALE14」も生まれていなかったかもしれません。

決してオススメできる行動ではありませんが、現状維持を怖いと感じ、常に全力を出し切らなければならない環境に身を置くことが成長には不可欠ではないでしょうか。

2020年には東京オリンピックが控えています。ワクワクする一方で「東京オリンピックが終わったあとのスポーツ業界のことを真剣に考えなければ」という使命感も同時に抱いています。東京オリンピック後もスポーツは続きますから。そのために、これからも「スポーツの魅力を1人でも多くの人に伝える」という自分の役割を全うしていきます。

 

■会社概要:株式会社タイズブリック
所在地:東京都港区
設立:2009年11月
代表者:代表取締役 佐藤孝、伊藤滋之
資本金:3,000万円
事業内容:番組制作、企画営業、コンテンツ開発

 

■プロフィール:伊藤滋之
『筋肉番付』から生まれた的当てゲーム『ストラックアウト』の名付け親。代表的なキャッチコピーに「絶対に負けられない戦いが、そこにはある」がある。株式会社タイズブリック代表取締役。スポーツを言語化するプレゼンショー『ALE14』総合プロデューサー。

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