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バカン 代表取締役 河野剛進氏
待ち行列をなくせば、人はもっとやさしくなれる――それが理想の世界

BRANDPRESS編集部
2018/11/09

市場の常識を変えるような華々しいプロダクトやサービスが、日々メディアに取り上げられる今日。その裏には、無数の挑戦や試行錯誤があったはずです。「イノベーター列伝」では、既存市場の競争軸を変える挑戦、新しい習慣を根付かせるような試み、新たなカテゴリの創出に取り組む「イノベーター」のストーリーに迫ります。今回話を伺ったのは、レストランなどの空席情報配信サービス「VACAN」を提供するバカンの代表取締役、河野剛進氏。「世の中から待ち行列をなくしたい」と語る同氏の理想の世界について聞きました。

 

起業して地域経済の活性化に貢献したいという夢

バカンという社名は、「Vacant」(「空いている」の意味)という英単語に由来します。われわれは、商業施設にあるレストランなどの空席情報をその場で検索できるプラットフォーム「VACAN(バカン)」を提供しています。コンセプトは「いま空いているか、1秒でわかるやさしい世界」。レストランが混雑しているかどうかが事前にわかれば、食事場所を探している人にとって選択肢が広がり、混雑の解消につながる。それによってイライラがなくなれば、他人に対してもやさしい気持ちになれると考えています。

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実は、起業の夢は学生時代から持っていました。宮崎出身なのですが、自分の生まれ育った田舎がこのまま何もしなければ経済的に衰退していくことに危機感を感じていたので、いつかは自分が会社を立ち上げて地元に恩返ししたいという漠然とした思いがありました。学生時代の専門は画像認識と技術経営です。テクノロジーを駆使して新しい価値を世の中に生み出すことを追求したいと考えていたのですが、その中でも特に注力したのがファイナンスの分野です。技術力があったとしてもスタートアップ企業の資金繰りは難しいものですが、どうやってそれを乗り越えていくかということに興味をもっていました。

 

最初に就職したのは、三菱総合研究所です。シンクタンクなら日本全体を見渡しながら幅広い仕事ができるのではないかと感じたからです。また、ちょうど民間事業に対するコンサルティングサービスを開始したタイミングだったので、将来起業する際の学びにもなるのではないかと思いました。そこで3年半ほど勤めたあと、かねてより自分が主体となって事業を推進していく経験も積みたいと思っていたこともあり、インターネット企業のグリーに転職しました。ちょうどグローバル展開しようとしていたタイミングで、事業戦略策定や経営管理を担当し、新規事業の立ち上げや海外勤務も経験しました。

 

レストランの待ち行列でのストレスから新発想が生まれる

働きながら、大学院卒業後10年以内に起業することは決めてはいましたが、自分がほんとうにやりたいものでないと続けられないと思っており、なかなか起業のタイミングは訪れませんでした。しかし、起業のきっかけは意外なところにありました。結婚して子どもが生まれたことで、時間の使い方を考えるようになったことがきっかけになったのです。

 

それまでは、がむしゃらに働いていました。それはそれでとても楽しかったのですが、子どもが生まれたことで、家族と過ごす時間がそれまで以上に貴重に思えるようになったのです。1分でも早く帰宅して子どもが寝つく前に会いたい、それだけでも親子のきずなが強まるのではないかと思うようになりました。

 

家族でショッピングモールに出かけたとき、ランチを食べる場所を探しているうちに、子どもが泣き始めてしまったことがありました。週末のランチタイムはどのレストランも待ち行列ができており、すぐに入れる店を探すのは至難の業です。このとき、各レストランの現在の混雑状況がわかれば、良い体験のまま週末が過ごせるのではないかと思いました。そのひらめきを具現化したのが現在の「VACAN」です。

 

サービスの大枠は、すぐに思い描くことができました。各レストランに設置したカメラの画像を解析して混雑状況を把握し、その情報をスマートフォンで見れるようにすれば、待ち行列のストレスから解放されるのではないかと考えたのです。大学院でAIによる画像解析も研究していたので、どのような技術的な課題があるのか、どんなシステムを構築する必要があるのかは、その時点である程度イメージできていました。

 

トイレ待ちが従業員の生産性を低下させている

まずは、このアイデアをアレンジして、トイレの空き情報をリアルタイムで伝えるクラウド型IoTサービス「Throne(スローン)」を開発しました。腹痛におそわれ、ようやくたどり着いたトイレがすべて埋まっており、イライラしながら待ち続けた経験のある人は多いはずです。商業施設だけでなく、オフィスビルなどでもトイレの待ち時間で従業員の生産性が落ちていたり、ストレスがたまるという問題があることを自分自身でも痛感していました。そもそもオフィスビル内のトイレの数や場所は、ビルの設計段階に決められ、テナントの入れ替えや採用・退職等が起こる中で、実際にそこで働く人の人数や男女比にあわせて動的に最適化されているわけではありません。

 

開発したのは、各階のトイレの個室に取り付けたセンサーが利用状況を判断し、その情報をリアルタイムで配信することにより、トイレに行かなくても空き情報がわかるというものです。プロトタイプの開発までは順調に進みましたが、実際に試験運用を始めると、予想しなかった課題が次々と見つかりました。しかし、それらを1つずつ解決したことが、いまは貴重な財産となっています。

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「VACAN」のサービス開始後も、新たな発見がいくつもありました。例えば、当初はスマートフォンやタブレットへの情報提供をメインに考えていたのですが、商業施設内のデジタルサイネージに表示させたほうが、お客様の目に止まるのではないか。スマートフォンで空き情報を確認するには、アプリのダウンロード、もしくはネット検索が必要となります。しかし、デジタルサイネージならその手間は不要で、いま空いているかどうかが1秒でわかります。これこそが、われわれが目指していた世界であることに気づいたのです。

 

ワクワクするものを楽しみながら作りたい

実際に「Throne」と「VACAN」を開発してみて、技術も大事ですが、それをサービスとして洗練させることも重要であることを学びました。イノベーションを起こすには、シンプルではありますが、やはり「楽しくやる」ことが基本だと思います。組織としても、ワクワクするような未来を描けているか、自分たちがどのような理想を掲げているかを強く意識しています。せっかく働くことに対して時間を割いてるのだから、おもしろくないと無駄になってしまうし、ここぞというときに踏ん張りが効かないと思います。

 

われわれが開発しているサービスは、ただ時間の効率化を追求しているわけではなく、利用者の選択肢を増やすためのものです。例えば、トイレの個室の中にいる人が周囲の混雑状況を知ることができれば、どうしてもお腹が痛くてまだ出ることができない場合以外は「ちょっと急ごうかな」という気持ちになるはずです。ノックされて急ぐのは何となく嫌なものかもしれませんが、自分からだったら気持ちよく次の人のために空けることができるのではないでしょうか。人々の善意によって混雑が解消されるのが理想です。

 

このように、自分の時間を大事にすることで、周囲に対しても気を配れるようなゆとりを持つことを後押しするサービスを作れたら、世界はもっとやさしくなれるはずだと信じて、日々のサービス開発に取り組んでいきます。

 

■会社概要:株式会社バカン
所在地:東京都千代田区
設立:2016年(平成28年)
代表者:代表取締役 河野剛進
事業内容:IT、AI/IoT 関連事業

■プロフィール:河野剛進(かわの・たかのぶ)
東京工業大学大学院 修了。画像解析や金融工学のバックグラウンドを背景に、株式会社三菱総合研究所で市場リスク管理やアルゴリズミックトレーディング等の金融領域における研究員として勤めた後、グリー株式会社にて事業戦略・経営管理・新規事業立ち上げ、および米国での財務・会計に従事。エルピクセル株式会社において経営企画室長を務め、シンガポールでの合弁会社の立ち上げ等に従事した後に、株式会社バカンを設立。社団法人日本証券アナリスト協会検定会員。

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