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組織改革の専門家が解説する「日本版ジョブ型雇用」 そのメリットと導入の秘訣とは

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2021/02/16

コロナ禍に端を発したテレワークの浸透により、日本企業の働き方や組織マネジメントは大きな変化のただ中にある。「テレワークの中でどう社員をマネジメントするか」という問題は特に注目を浴び、日本企業特有の「メンバーシップ型雇用」から欧米で主流となっている「ジョブ型雇用」への転換が盛んに議論されはじめた。まだ明確な答えが出ないこの議論に、経営者や人事部門はどう向き合えばよいのか。HRテックの統合システムを提供する株式会社Works Human Intelligence(ワークスHI)の経営企画部門責任者として、組織改革支援や企業文化の醸成など幅広く活躍する伊藤秀也氏に話を聞いた。

ジョブ型雇用の必要性はコロナ禍の前から高まっていた

新型コロナウイルスの感染拡大防止のために、多くの企業がテレワークを実施したことにより、「テレワーク下でのマネジメント」が新たな問題として浮かび上がってきた。こうした中、これまでの雇用形態を根本から見直す「メンバーシップ型雇用か、ジョブ型雇用か」の議論も大きな注目を浴びている。ここ最近にわかに沸き起こった議論かのように思えるが、伊藤氏によると、数年前からすでに論点になっていたという。

「ジョブ型雇用が注目されはじめた背景には、コロナ禍前から起きている日本企業を取り巻く3つの環境変化があります。1つ目が、少子高齢化による年功序列型の報酬設計の限界です。代表的な問題としては、中堅社員以上の割合増加による報酬の高止まりが挙げられます。2つ目が、エンジニアや法務系の人材など高額な報酬を必要とする専門職採用の難化。そして3つ目が、海外売上の割合増加により、各国に合わせた人事管理制度導入の必要性の高まりです。こうした環境の変化から、ジョブ型雇用の必要性が議論されはじめ、2020年のテレワーク普及により、一気に表面化したのが現在の状況です」

バズワードのように「ジョブ型雇用」が叫ばれてはいるが、その定義は日本においてはまだはっきりとしていない。あらぬ認識違いを起こさないよう、ジョブ型雇用の概念を理解しておくうえで、はずしてはいけない3つの特徴があると伊藤氏は語る。

「1つ目が職務定義書(ジョブディスクリプション)をもとに人材配置や報酬を決定する点です。職務定義書に書かれている業務を課すことが前提となりますし、年功序列型の報酬設計とは根本から考え方が違ってきます。2つ目が、人事部とは別に現場にいながら人事的な業務を行う人材がいることです。HRBP(HRビジネスパートナー)と言われたりもしますが、正確な職務定義書を作成するために、事業目線で人事に情報提供や提案を行う役割の人材です」

「そして、3つ目がジョブ型特有の評価概念。そもそもジョブ型雇用では細やかに評価をするという発想があまりありません。あらかじめ決められた職務定義をもとに採用や配属を行うため、結果を出すことが前提となるからです。こうした、従来の日本企業の雇用形態との根本的な違いはしっかり理解しておくべきです」

さらに、ジョブ型雇用にはアメリカ型やヨーロッパ型など国や地域によって細かな違いがあるという。それは、各国の文化や法制度からくる違いでもあると伊藤氏は分析する。

「アメリカでは、職務定義書で求められる結果が出なければ即解雇というケースもあります。アメリカの人材流動性が高い背景の一つです。一方、ヨーロッパも職務定義書に沿って採用や配属を行うことが当たり前になっていますが、結果が出なかったり職務が無くなった場合はアメリカのようにすぐに解雇せず、別の職務を担当してもらうなどマネジメント手法に違いがあります。翻って日本で考えた場合、アメリカのように即解雇はできないためヨーロッパと近い点はありますが、ジョブ型雇用を前提とした組織体制にはなっていません。そうした違いを理解したうえで、『日本版ジョブ型雇用』を考えていく必要があります」

人材確保の観点から見えるジョブ型雇用のメリット

「職務を定義すればジョブ型雇用ができる」といった単純な話ではないことは明白だが、では「日本版ジョブ型雇用」はどう考えていけばいいのか。まずは、経営者にとってジョブ型雇用のメリットはどこにあるのかを整理してもらった。

「大きなメリットとして挙げられるのが、マーケットに合わせた報酬設計が可能となる点です。これにより、専門性が高く市場において希少な人材の獲得がしやすくなりますし、年功序列型の報酬設計の問題が解消されます。少子化によりますます人材の確保が難しくなっていく中で、どれだけ優秀な人材を揃えられるかが組織力の鍵を握ります。このメリットを念頭に、自社の事業内容と照らし合わせたうえでジョブ型雇用導入の是非を経営者は考えていくと良いのではないでしょうか」

事業形態によってはジョブ型雇用が合わないケースもある、と指摘する伊藤氏。ここでも、2つのポイントに整理して、ジョブ型雇用が合う事業、合わない事業の考え方を提示してくれた。

「1つ目は、ジョブ型雇用にすることで人材の確保がしやすくなるかどうか。先ほど市場からの人材獲得についてはメリットがあるとお話ししましたが、例えばジョブ型雇用にすると、新卒一括採用が難しくなります。現状の新卒生が就職活動において、職務定義書をベースに応募するとは考えにくいですよね。新卒一括採用を優先するか、専門性の高い人材の中途採用を優先するか、は大きな岐路になると思います。それから、シニア社員の再雇用、地域限定採用、テレワークをしたい社員、副業をしたい社員などそれぞれの働き方に応じてジョブ型雇用を取り入れることで、多様な人材の確保にもつながります。一方、こうした多様な人材確保の優先度が低い事業もあると思いますので、自社はどちらなのかを考えるといいでしょう」

「2つ目のポイントが『妥当な処遇』への改革が必要かどうか。既に対応を進めている企業も多いですが、管理職層が増えたことで、報酬設計に悩んでいる企業はまだあると思います。対応が進んでいる企業では、管理職層の役割を明確にすることで、報酬設計の見直しを図ることができます。これは広義なジョブ型雇用と言ってもいいと思います。具体的にはマネジメント専門の役割、専門職としての業務に特化するエキスパートとしての役割に分けて、会社への貢献度が高い役割に対して報酬を高くする制度です。また、裁量労働制とジョブ型雇用は親和性が高く、報酬設計がしやすくなります。こうした処遇の合理化が必要な事業であれば、導入の検討をすべきでしょう」

実は今挙がったポイントを押さえ、ジョブ型雇用を実行している企業は一定数存在するという。日本版ジョブ型雇用は、すでに始まっているとも言えるが、そうした事例が表立って出てこないのは各社とも慎重かつ部分的に導入を進めているからだ。こうした進め方こそが、日本版ジョブ型雇用の導入において最も重視すべき点にもなってくる。

「いきなり全社的にジョブ型雇用を導入するのはおすすめしません。それにより新卒社員の確保が難しくなりますし、評価への不安感から経営層への疑念が生まれる可能性もあります。したがって、まずは中途採用者や専門性の高い職種限定で、日本版ジョブ型雇用を適用していくのがいいでしょう。」

「同時に、MBOなどの目標管理制度に職務定義を組み込み、徐々にジョブ型雇用の働き方に慣れていく、といった対応も重要になってきます。どうしても人事制度は全社一括という考えになりがちですが、部分的あるいは試験的に導入を行い、自社の組織風土にあったジョブ型雇用を構築していく発想が大切です」

“なぜ”ジョブ型雇用にするかを社員に丁寧に伝える

昔から日本企業は海外の技術を取り入れて、自己流にアレンジする能力に優れると言われている。そうした能力を今度は人事制度において発揮し、日本の企業社会に適したジョブ型雇用を開発していけばよいということだろう。では、仮に日本版ジョブ型雇用が確立していったとして、人事に求められることはどう変化していくのだろうか。

「ジョブ型雇用が広まれば、人材の流動性は高まるでしょう。各社が市場ニーズに応じた報酬設計を行うことで、専門性の高い人材の採用合戦がはじまるからです。同じ職務定義であれば報酬の高い会社を選ぶ人が増えても、なんら不思議ではありません。したがって、人事は社員のリテンションへの注力が必須になってきます。

それから、HRBPのような現場にいながら人事的な視点を持つ人材の育成や配置も重要です。職務定義書は定期的にメンテナンスを行い、社員が納得するもの、そして会社にとってメリットとなる内容にし続ける必要があります。刻々と変わるビジネス環境に応じて、職務定義書も変化させることが前提であり、そのためには現場を知る人材の協力が不可欠なのです。こうした組織体制の構築も、今後人事が注力していくことになるでしょう」

改めて、冒頭で伊藤氏が挙げた年功序列型組織の限界、人材確保の難化、組織のグローバル化などの背景を考えると、ジョブ型雇用は経営者にとってはもはや無視できない存在となっている。では、経営者がジョブ型雇用のメリットを最大化させるために、今後注力すべきことは何なのか。

「最も大事なのは、社員のリテンションを実現するために、人事の育成に注力することです。人事のスキルアップや視点を上げた学習の場、交流の場を提供したり、社内のベストプラクティスを経営者自らキャッチアップし、積極的に事例を共有していくとよいでしょう。人事はどうしても内向きの仕事が多く、タコツボ化しやすい役割ですから、経営者が彼らを引き上げる環境を整備することが大切です」

「そして、何よりも経営者自らが、社員に対してしっかりとメッセージを発信することです。特にジョブ型雇用に切り替えることで、社員は『報酬を下げようとしているのではないか』といった不安を抱きがちです。そうした疑念が起きることも前提に、希望する仕事につきやすかったり、裁量度の高い働き方が可能になるなど、社員にとってもメリットが大きい点を伝える必要があります。また、それだけでなく、成果を出すために自己研鑽に励んでほしい、他者に貢献できる個になるように成長してほしいなど、期待することも明確に伝えてください」

変化を起こすときほど、丁寧に社員とコミュニケーションを取ること。そのためには、経営者が率先して人事や現場社員と向き合い、ジョブ型雇用のメリットや起こりうる組織の変化を認識しなければいけない。一人ひとりの社員と真摯に向き合っていく姿勢こそが、これからの経営者には求められているのだ。


■会社概要
会社名:株式会社Works Human Intelligence
本社所在地:東京都港区
事業開始:2019年8月1日
資本金:1億円
代表取締役社長最高経営責任者(CEO):安斎 富太郎

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